火災保険の選び方

類焼損害補償特約について

類焼損害補償特約の補償内容や特約付保の必要性について考えてみましょう。ここでは併せて失火責任法や賠償責任との関連についてもお伝えしたいと思います。

次のようなご質問、
「万一火災事故を起こしてしまい、お隣を巻き添えにして被害を出してしまった。そのような場合、お相手への弁償をしなければならないと思います。火災保険ではどう対応ができますか?」

皆様、ご近所で火災が発生し、近隣を巻き込むような火災事故のご経験はございますか?

私は小学2年生のころ、お隣が火災になり全焼となる事故を目の当たりにした経験があります。消防車数台が消化活動中、我が家もご近所に避難しましたが、そこで母親が「うちもだめかもしれないね」と一言、お隣には同級生がいて「ぼくのおもちゃを取ってくるのをわすれた、お小遣いが燃えちゃう」と泣いていたのを覚えています。鎮火後の建物は、外観以外中は真っ黒で、何も残っていない空洞の状態でした。我が家に燃え移らなかったのが奇跡のようでした。

実際、このような建物火災は十数分に1件の割合で発生していると言われています。

火災は、起きてしまったら一大事、大切な物を焼き尽くしてしまいます。ましてその炎が近隣の住宅にも燃え移り、多くを巻き込む大事故になったら、そしてそのような事態を我が家が引き起こしてしまったら、一体どう対処すべきでしょうか。とても気になる心配事の一つです。

まず、火災事故が原因でご近隣に損害を出してしまった時の火元の対応についてお話をする前に、他人に対する損害賠償責任について考えてみます。民法上(民法第709条)では、日常生活の中で、他人にけがをさせてしまったり他人の物を壊してしまったりした場合、その相手に生じた損害に対しては賠償する責任を負う。と定められています。このような事態に備える保険としては個人賠償責任補償特約があります。
これにより法律上の賠償費用を補償するのです。他にも、
・自転車で友人のところへ向かう途中、交差点で人にぶつかりケガをさせてしまった。
・ペットが散歩中、通りがかりの人に噛みついてしまいケガをさせたうえ、服も汚した。
・お買い物中、誤って商品を落としてしまい、弁償することになってしまった。
・子どもがボール遊びをしていて人の家の窓ガラスを割ってしまった。
・スキー滑走中、他人とぶつかりケガを負わせてしまった。
等により生じた損害に対し、賠償にかかる費用を補償するのです。

それでは同様に火災事故が発生したケースをこの民法第709条にあてはめてみます。自宅からの火災事故による延焼で、他人の家にも損害を与えてしまった。つまり他人の財物に損害を与えてしまった訳なので、損害賠償責任が生じると考えられます。

その場合の損害賠償は、個人賠償責任保険で対応が取れると考えられそうです。改めて考えることではないとおもわれるのですが・・・。実はこの709条には、驚きの例外規定が設けられているのです。その例外とは、「失火の責任に関する法律」、いわゆる失火法といわれるものです。「民法第709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず。」としているのです。

この失火法についてはご存知の方もいらっしゃると思いますが、これを平たく説明しますと「火災による事故で近隣の住宅に類焼し損害を出してしまったとしても、火災の原因に重大な過失が無ければ賠償責任を負うことはありません。」と言う内容なのです。

いざ購入すれば数千万するマイホームです。よそからの火に巻き込まれ、この大切な財産を自分の責任が無い状態で失うわけです。その復旧にかかる費用はもちろん火元に求めて当然と思いきや、民法上認められないなんて・・・。受けたその損害復旧は自分自身の火災保険などで行うしかないのです。

繰り返しになりますが、失火法では、民法709条で規定している「日常生活の中で自分の不注意で他人に損害を出したなら、きちんと損害賠償しなさい」という原則の例外として、失火(火事)の場合には、重過失の場合を除いてこの原則を適用しない、と定めているのです。

マイホームと言えば戸建のみならず、タワーマンションなどの共同住宅も挙げられます。当然失火法に関する考え方は同じです。共同住宅は戸建てよりご近所が密集しています。右や左に上階もあれば階下にも。炎や真っ黒な煙は上階へと上がり、消火による放水量は給排水管の水漏れ事故とはケタ違い、滝のような水量で階下全体に及ぼす被害は相当ではないでしょうか。

普段からご近所付き合いが良好であったとしても、一財産失う事故に巻き込まれてしまった住民の皆様が「仕方ないね」と優しく声を掛けてくれるものでしょうか。当事者も「失火法により損害賠償責任は生じない」と言い切れるものでしょうか。

それでも法律上定められていることですから、このような事態に用心しそれぞれ皆様が火災保険の検討をしていただく必要はあると思います。

この失火法が定められたのは明治32年で、既に100年以上続いています。昔でいう江戸の大火ではありませんが、日本の住宅の多くは木造建築物で、しかも狭い土地に密集して建てられています。このような立地で一度火災が起きてしまうと、あっという間に燃え広がることも。実際火災事故の場合、自分自身の損害復旧でさえ経済的にも精神的にも厳しい状況に追い込まれるでしょう。それに加えて近隣に出してしまった損害全ての賠償責任を負うのは現実的に無理なこと。そこで、この法律では火元に対して賠償責任を負わせないと定めたのです。

このようにお話をしてきますと、結局のところ自分の身は自分で守ることを前提に対処すべきなのかもしれません。もともと火災保険は自分自身の財産に降りかかる火災事故や防ぎきれない自然災害、突発的に起きる日常災害などにより受けた損害を復旧させるための補償項目が組み込まれているのです。

実はその中には自己防衛の観点から、他人に与えてしまった失火に対する補償項目が用意されているのです。その一つ目は「失火見舞費用保険金」です。内容は、保険の対象から発生した火災、破裂、爆発の事故によって、近隣など第三者の所有物に損害が発生した時の第三者へのお見舞い費用を支払うものです。1事故1世帯あたり30万~50万の範囲(限度額は各社規定。この保険金自体が無い商品もありますので内容確認についてはご注意を)となりますので、金額からすればあくまでお見舞金の範囲となります。

そして二つ目に類焼損害補償特約が挙げられます。

前提として、自宅からの出火により隣家住宅に燃え移り被害を広げてしまった場合、失火法が適用されると、被害宅への損害賠償義務が発生しません。従って、被害宅はご自身の火災保険で復旧をすることになります。しかし、その火災保険で充分な復旧が叶わず(保険金が足りない、建物のみ保険に加入していて家財の復旧が出来ない等)不足分が出てしまった。

このような状況下、火元としてその不足分を補償する目的で加入しておくのが、類焼損害補償特約です。この特約は、法律上の賠償責任がなくとも補償します。支払いの限度額は1億円、補償の対象は居住の用として使われる建物とその収容家財で、店舗・事務所・工場などは対象外となります。

また、補償するのは不足分に対してなので、被害宅の火災保険で復旧できるとこの類焼損害補償は使うことはありません。あくまで、ご近所様への対策になります。

さらにこの特約、類焼の場合無条件で適用されるわけではありません。適用するのは火災事故であり、破裂・爆発事故は適用されません。また出火原因に重大な過失がある場合は、失火法が適用されず、損害賠償が生じますので、この場合は個人賠償責任補償の対応範囲とかわります。何ともややこしい話ですが、補償の対応できるすみ分けが決まっているのです。

重大なる過失(重過失)とはどのような状況を言うのでしょうか。

重大な過失とは、「ほんの少しでも考えれば起きる結果が分かるのに、漫然と事態を見過ごした状態」を意味します。例えば、

「お酒を飲むと直ぐにウトウトする自覚できる習慣があるのに飲酒後の寝たばこが原因で火事になった。」

「天ぷら料理をしているさなかキッチンを離れ電話に夢中、結果火災事故を起こしてしまった。」

「ストーブの真上に洗濯物を干したままで、衣類に着火し火事になった。」

このように、ほんのわずかな注意で防げる結果を放置した状態をいいます。

いろいろお伝えしてきましたが、火災事故で近隣に損害を出した場合、法律上の賠償責任があろうとなかろうと、被害者としては、失火法がどうこうより弁償してほしいはずです。全額とはいかないまでもせめて不足分位は補償して欲しいはずですし、正直それくらいは言いたくもなるでしょう。

火元側も失火法を盾に賠償責任があるとかないとかあれこれ説明するよりも、火元の道義的責任として、復旧のお手伝いをしたいと思うのではないでしょうか。損害復旧後、その土地に留まるのであればなおさらではないでしょうか。そのような意味でこの類焼損害補償特約と個人賠償責任保険を併せて検討されては如何でしょうか。

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この記事を書いた人

久保勝裕(株式会社アイ・エフ・クリエイト 保険コンサルタント)

2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)